奄美大島には世界の亜熱帯域の中でも限られた地域にしか成立しない亜熱帯照葉樹林が、国内最大規模のまとまりで存在します。特に住用川上流、役勝川上流、川内川上流、湯湾岳、 金作原周辺には林齢の高い照葉樹林が存在しています。
これらの森林には、大陸との接続と分断を繰り返しながら形成された島嶼という地史的な経緯から、アマミノクロウサギ、オオトラツグミ、カンアオイ類などの固有種や遺存種といっ た他の地域には見られない動植物が存在します。
笠利湾、笠利半島東岸、龍郷湾、住用湾、焼内湾、加計呂麻島の内湾等の浅海域には干潟が みられ、固有種・希少種を含む多様な生物の生息・生育場所となっています。また、一部の干潟にはマングローブ湿地が成立しており、住用川・役勝川河口のマングローブ林は 71ha と 大規模で特有の生態系が見られ、希少巻貝類の生育場所、リュウキュウアユの稚魚の成育場所にもなっています。
奄美大島沿岸域においては発達したサンゴ礁が見られ、特に笠利半島、赤崎から摺古崎、大和村の沿岸、焼内湾、加計呂麻島周辺に被度の高い場所が存在します。しかし、近年オニヒ トデ等による食害や白化現象、赤土の流入等の攪乱要因により、大部分の地域においてサン ゴ群集の衰退がみられます。特に1998 年の異常高水温による白化現象の影響は顕著で現在、 回復の途上段階であると考えられています。 また、奄美大島の沿岸は、ウミガメの産卵地点やアジサシ類、アナドリ等、海鳥の集団繁殖 地が見られるなど、広域移動性生物の繁殖地・中継地としても大きな役割を果たしています。
奄美大島では、かつて自然と密接に関わる暮らしが営まれており、その中で島唄、八月踊り、 豊年祭などの伝統文化、自然観、信仰などが生み出されてきました。また、集落の前面の海 や後背の山と一体となった生活の痕跡や、山や海の神の信仰が具現化された集落景観など、 人と自然との密接な関わりを示す要素を多く確認することができます。1,300 年余の歴史があり、わが国最古の伝統をもつ染色織物と言われる大島紬や、黒糖焼酎など地域に根ざした産業が息づいています。